アメリカの精神科医J.リフトンの『現代、死にふれて生きる』という本の中に、「象徴的不死性」という概念が出てきます。死を安らかに受け入れるための準備としての条件が5つのタイプの経験に分類されています。...
もう20年近くも前のことになってしまいましたが、サンフランシスコの禅ホスピスプロジェクトを視察に行った時のこと。「『光が見える、光が見える…』って言っている人がいるんだけど、どう対応したものか困っている。たぶん君の専門分野だと思うので、行ってみてくれないか」と、突然にご指名を受けてしまいました。...
「スピリチュアル」という言葉が注目されるようになったきっかけの一つは、1998年にWHOが健康の定義の改正案を出して、その中で、身体的、心理的、社会的に加えて第4番目の条件としてspiritualという言葉を入れようとしたことによります。この改正案では、スピリチュアルという言葉と同時にダイナミックdynamicという言葉の2語が追加されています。...
スピリチュアルケアのはじまりは、シシリー・ソンダースが聖クリストファーズ・ホスピスを創設したことによる現代的ホスピス運動に端を発しています。ソンダースの人生についてはシャーリー・ドゥブレイの『シシリー・ソンダース』によくまとめられています。看護師としてキャリアを始めたソンダースは、背中の痛みから医療社会福祉の道に転身し、そこでカトリックの慈善の姉妹会が運営する看取りの場でモルヒネを経口投与して意識を混濁させることなく上手に痛みをコントロールしていることを学び、一念発起して医師の資格を取ります。こうして痛みの医学的な研究を積み重ねたことが、伝統的なキリスト教の中で培われてきた霊的ケアの営みが現代医療の場に花咲く機会が得られたのだと思います。 彼女は、①モルヒネを使って身体の痛みを取ること、②患者の全人的な痛みに対してチームによる全人的なケアを提供していくこと、③そのためにベッドサイドでの痛みの研究とチームによる情報共有という教育的要素が統合されること、この三本柱でホスピスを構想していたようです。スピリチュアルケアは、この全人的なケアのうちの、身体的ケア、心理的ケア、社会的ケアによっては対応しきれない深い存在・魂の痛みとしてのスピリチュアル・ペインに対するケアとしてとらえられています。スピリチュアルな痛みへのケアがなされることによって、身体的な痛みや心理的痛み、そして社会的痛みへの対応力も高まってくるのです。 私が2006年から高野山大学で構築してきたスピリチュアルケア観、具体的な援助法、それを支える諸理論については、日本におけるスピリチュアルケアのパイオニアである窪寺俊之先生との共著『スピリチュアルケアへのガイド』にまとめてあります。