アメリカの精神科医J.リフトンの『現代、死にふれて生きる』という本の中に、「象徴的不死性」という概念が出てきます。死を安らかに受け入れるための準備としての条件が5つのタイプの経験に分類されています。
- ご先祖様から伝わってきた祈りが子孫に伝えられてゆくイメージが持てること。生物学的にDNAの情報が地球上に誕生した生命の進化の情報を私に伝えてくれて、それが子どもたちにつながってゆくイメージでもいいでしょう。
- 死後の世界についての世界観が持てること。日常の物質的な世界よりも高次で全体的な世界につながってゆくというイメージが持てること
- 自分の仕事が誰かに受け継がれててゆくと感じられること。これまでの人生で頑張ってきたことが人間的な関係性の中で影響を与え生き続けてゆくだろうと思えること。
- 大自然の一部として生かされているという感覚。
- 時間や死を超えた超越体験を持つこと。歌や踊り、戦闘、セックス、出産、競技、知的・芸術的創造活動あるいは瞑想の中で体験される。
そして忘れてはならないことは、リフトンが「象徴的不死性はエリクソンが基本的信頼と呼ぶものに近い」(1989, 39頁)と言明していることです。人生最初の1年間で基本的信頼が身に着くと、それが将来の健康の土台となってくれるように、私たちが日常生活の中で上記の5つのいずれかによって象徴的不死性の体験を積み重ねてゆくことが、人生の最期で自らの死を受容してよき人生の終わりを迎えることができるようになるために大切なことなのです。
ブッダが、苦しみから解放された涅槃のことを「不死」と呼んだことにも通じるものがあると思います。